2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ティピカとブルボンの起源

昨日書いた #ティピカは「エチオピアの在来種」じゃないし、ブルボンは「ティピカの変異種」じゃない。 #ティピカとブルボンは、共に「エチオピアからイエメンに渡って栽培されていたコーヒーノキの子孫」くらいが正しい。 について。 先に結論から ティピ…

NHK「極める」

明日、5月31日から、NHK教育「極める」で「石井正則の珈琲学」がスタートします。 (毎週月曜日 午後10時25分〜10時50分、全4回)とりあえずテキストを買ってきて、健康との関係についての部分(少々、縁があったので)を眺めてみました。メインの部分は野田…

ブルボン・ポワントゥ

今年は、いくつかの伊勢丹にあるカフェ・メルカードで、五月末くらいまで店頭で飲めるようになっていたのを思い出して、京都伊勢丹まで飲みに行ってきました。 ダックワーズ(焼き菓子)一つと小さなパンフレットつきで1050円(税込み)。コーヒーはペーパー…

メモ:アントニー・ワイルド「コーヒーの真実」における仮説

アントニー・ワイルドの『コーヒーの真実』(原題:Coffee:A Dark History)は、近年書かれたコーヒー史本として一読に値する。内容もオリジナリティがあり、ある意味「異色」でもある。ただ、自分の得意とする「理系」的な部分では理解の粗さが目立つ部分も…

小休止

「モカの通った道」を見直しながら改めて考えてみてるのだけど、もう少し、当時のイエメンの事情についての知識が必要だなぁ、と痛感してます。 特に、ラスール朝とオスマントルコそしてザイド派部族の関係について、それぞれがどのようにイエメン各地に影響…

ウダインからの広がり

アッファーブかアデンかはさておくとして、コーヒーノキは港からウダインに伝わり栽培されるようになった。コーヒーは通常の作物よりも標高の高い地帯で栽培可能で、他の作物と農地が競合することもなく、しかも換金作物であった。このため、その後コーヒー…

ウダインまでの経路

次に、ウダインに至るまでにコーヒーが通った道筋についても考えてみたい。コーヒーノキは紅海を挟んだエチオピアから、どこかの港に船で運ばれて来たはずだ。紅海に面したイエメンの港として、現在は フデイダ(フデイダ州の首都) モカ アデン などの名前…

「ウダイン起源」仮説

エチオピアの「どこから」持ち出されたかは、このくらいにしておこう。次は、これがイエメンの「どこに」持ち込まれ、どう広がっていったかだ。残念ながら、イエメン栽培種の遺伝子解析は不十分であり、また栽培種の種類自体も整理がつけられないのが現状だ…

エチオピアからイエメンへ:遺伝子解析による系統解析

エチオピアは、グレート・リフト・バレー(アフリカ大地溝帯)の入り口に当たる。北東にある紅海の側から南西の高地に向かって、グレート・リフト・バレーが国土のど真ん中を分断するような形になっている。コーヒーノキはリフトバレーの西側と東側の、両側…

「モカの通った道」

現在、コーヒーノキは世界中に広まっており、その元を辿れば「ティピカ」と「ブルボン」というアラビカの二大品種に行き当たる。この二大品種はそれぞれ異なる道、つまり「ティピカの道」と「ブルボンの道」を通って世界中に広まったものだ。この「二つの道…

不揃いな「イエメンモカ」たち

…エチオピアに続いて何だか訳の判らない外来語の名詞ばかりで、ちっとも理解できた気にならないが、大雑把にポイントだけまとめておこう。 イエメンのコーヒーは複数の品種が混在する栽培種*1で、イエメン栽培種(群)と総称される。 イエメン栽培種群の全容…

イエメンコーヒーの分類

イエメンコーヒーの分類は、とにかく混乱している。とりあえず歴史順に従って、記述に徹してみよう。 イエメン栽培種※ただし北イエメンに限る 最初にイエメンのコーヒーの植物学的な特徴に言及したのは、エチオピアのコーヒーを13種類に分類した、シルヴェイ…

イエメンのお国事情

実は、ここにはイエメンの国家的な事情が絡んでいる。 イエメンでのコーヒー栽培がいつから始まったか、その正確な年代は不明だが、14-15世紀頃までには、紅海を挟んで対岸のエチオピアからコーヒーノキが持ち込まれて栽培が始まった。イエメンはその領土の…

イエメン栽培種

エチオピアが「アラビカコーヒーノキの故郷」ならば、イエメンは「コーヒーの故郷」である。イエメンこそが、初めて今日のコーヒーという飲み物」が生まれた地であり、また人の手によるコーヒー栽培が最初に行われた地だと言っていいだろう。今日、世界に広…

遺伝的多様性とその危機

アラビカコーヒーノキの故郷、エチオピア。その地に生きるコーヒーノキは、エチオピア野生種/半野生種と呼ばれる、多様な集団である。 そこには、ティピカやブルボンなど世界に広まった栽培品種とは異なる、遺伝的多様性が維持されたコーヒーの世界があり、…

エチオピアの末裔たち

エチオピアから持ち帰られたサンプルのうち、現在も栽培されているものがいくつか存在する。S4-アガロ、S12-カッファは、不完全ながら一部のさび病に対する耐性が期待されている。インドネシアやスマトラで栽培されている「アビシニア」やUSDAなども同様であ…

エチオピア野生種/半野生種のポイント

……いかがだっただろうか?実は、こういった説明を読んでみても、僕にも「よく判らない」というのが正直なところだ。個々のタイプの性質がばらばらなだけでなく、互いに入り交じっていて整理の付けようがない、という印象を受けるし、おそらくはその理解で正…

エチオピアコーヒーの分類

エチオピア野生種への関心が本格的に高まったのは、20世紀に入ってからだ。その背景には、コーヒーさび病の蔓延と、耐さび病品種を探索するという目的があったことは、以前(http://d.hatena.ne.jp/coffee_tambe/20100517#1274086121)解説した。1930年頃、…

エチオピア野生種・半野生種

アラビカコーヒーノキの故郷、エチオピア。その地に生きるコーヒーノキの全容は、未だ謎に包まれている…… …などと書くと、いかにもそれっぽいが、これは半分間違いで半分正しい。 エチオピアに存在しているコーヒーノキについては、すでに数千種類のサンプル…

粗考:モカ

少し話が横にそれるが、「モカ」という品種名が出て来た以上、この紛らわしい名前についての説明を避けて通るわけにはいかないだろう。「粗考」なんて言葉があるかどうかは知らないが、「モカ」という名前についてのRough-draft thinking…大雑把に考えをまと…

小豆な品種

一方で、種子そのものが小さくなるタイプの品種も知られている。これらはいずれも、種子や生豆「だけ」が小型化するのではなく、樹そのものや葉なども小さくなるし、節間も短くなる、いわゆる「矮性種」に分類される変異体だ。コーヒーの場合は、一般に小さ…

ピーベリー:一つを殺して一つを救う

コーヒー豆は通常、一個の実の中に二個の種子ができる。しかし、本来二個できるはずの種子が一個しかできない場合があり、この場合は通常より小さめで丸い豆になる。このような豆のことを、ピーベリー(peaberry、丸豆)と呼び、これに対して通常の「コーヒ…

小豆(こまめ)なコーヒーの話

前回、大きい豆の話をしたので、今回は小さな豆の話をしよう。 豆の大きさはさまざまな要因で変化することはすでに述べた。「(ずばぬけて)大きな豆」が出来る要因もいくつかあったが、小さな豆が出来る要因も同様に複数ある。というより、大きな豆が出来る…

セントバーナード x ダックスフント = ?

各国に広まったマラゴジッペから、いくつか新しい品種も作られている。マラゴジッペはどうしても背丈が大きくなるため、カトゥーラ系の矮性品種と交配することで、樹の大きさを小さくしたものが作られた。そのうち、もっとも有名なものが、エルサルバドルで…

大きいことはいいことか?

マラゴジッペは樹高も高くなるため収穫の効率が悪くなるのに加えて、もともと実が付く数も少ない。このため、かなり収量が劣る品種だ。にも関わらず、マラゴジッペは多くの栽培家に気に入られた。その結果、それぞれの作付本数はごく少ないものの、多くの国…

コーヒー界のセントバーナード:マラゴジッペ

上に挙げた一つ目のタイプの「エレファント・ビーン」は、一つの木に出来た生豆の一部に、巨大な豆が出来るものである。エチオピアなどでは、その巨大な豆が全体に占める比率が高くなる傾向があるが、それでも出来る生豆全部が巨大化するわけではない。これ…

病める?巨象

通常、コーヒーの果実の中には種子が「2個」向かい合わせに収まっている。そして、一つの種子の中には、大きな胚乳と、それに埋もれた小さな胚芽はそれぞれ一つずつ存在するのが「正常な」種子の形態だ。しかし交配時の異常などが原因で、本来種子の中に1個…

スゴイ大豆(おおまめ)

コーヒーの生豆には、たまに「ずばぬけて大きな」ものがある。これらは俗に「エレファント・ビーン」("elephant bean"、象豆)と呼ばれている。 そもそも、コーヒーの生豆の大きさを決める要因はたくさんある。樹そのものがどれだけ元気か、というのは非常…

「アラビカ≒イヌ」論

品種の話が続いてるが、ここで一つ喩え話をしておこう。 最近、うちの近くに大型のショッピングモールやホームセンターができた。その中のいくつかにペットショップが入ってて、子犬や子猫なんかが並んでいる。うちの周りだけなのか、あるいは全国的なブーム…

ひとまずここまで

以上が、さび病以前のブラジルの品種の大まかな流れである…途中あちこちに余談で飛んだので、話がごちゃごちゃになったが、おおまかにまとめると以下の通り。 ティピカ vs ブルボン → ブルボン(高収量、高品質) カトゥーラ発見 → 採用見送り(サンパウロに…