水蒸気はハゼの主因か?

フレーバーコーヒーで話し合ってた内容を、帰りの新幹線の中からいろいろと考えてみてました。


#以下、当人たちにしか判らない内容だと思うけど。


「大量の過熱水蒸気で焙煎したときにはハゼない」という結果は「1ハゼが主に水蒸気によるものだ」と言うには、やはり不十分だと思います。というのは、過熱水蒸気を用いた調理法について言われてることの一つである、酸化の阻害というのが関係している可能性を考える必要があるので。

焙煎中に豆から炭酸ガスが発生する過程としては、脱炭酸(コーヒー酸→ビニルカテコール+二酸化炭素、の反応など)もあるのだけれど、やはりハゼの起こる辺りに見られる、急激に進行するガス発生のときには、いわゆる燃焼反応(=発熱反応なので、ポジティブフィードバックし反応が早い)が大きく寄与すると考えられるでしょう。言い換えると、酸化反応の寄与が大きい。

大量の過熱水蒸気を用いると、低酸素雰囲気で化学反応が進むため、酸化反応自体が起こりにくくなるため、炭酸ガスの生成自体も少なくなってる可能性がある。このため、「証明のための化学実験」というものの見方から言うと、あの実験は「何を見てるのか判らない」ものになっちゃうんですね。


#ただし「証明のための実験」にはならない、というだけであって、あれは十分に「現象をみるための実験」にはなっています。
#実際、非常に興味深い現象が見られたわけだし。ただし仮説を実証するには、別の実験を組む必要がある、ということです。


あと、1ハゼのときに釜内部の湿度が瞬間的に上がる、という現象は重要な知見の一つだと思います(というか、僕も見落としてた部分なので、咄嗟に反論はできず、理論の軌道修正が必要になったのだけど)。ただし、その現象は「豆内部に閉じ込められていたガスには水蒸気が含まれている」ということを確かに示してはいるのだけれど、その水蒸気がハゼの「原因なのか結果なのか」は、その実験だけではやっぱりわからない、ということになる。


じゃあ「水蒸気がハゼの原因である」という仮説を実証するためには、どういう「証明のための実験」をやるか、というと、これはやっぱり僕がこっそりやってたような実験の方向で進める必要があるかと。つまり、他の条件はすべて揃えた上で、(1)事前に水分を十分に抜いてしまった(=焙煎中の水蒸気の発生が少ない)生豆と、(2)抜く前の生豆とで、ハゼを比較する必要がある、と。ただしさらに進めて、(3)事前に水分を十分に抜いた後、また水分含量を戻した生豆、まで比較しないと証明としては弱いし、何より「ハゼが起きる/起きない」と言った定性的なものではなく、「どの位の強さ/頻度でハゼが起きるか」を定量的に計測して比較しないと、はっきりとしたことは言えないなぁ、と。

#本当言ったら(1)は「水分を完全に抜いた生豆」と言いたいところだけど、まぁそれは不可能なので、(3)のデータで補強する必要性が高い。


まぁ現状、そこまで踏み込まずに「ハゼは、焙煎時に発生する水蒸気と炭酸ガスによって起きる」と言っておけば、少なくとも「間違い」ではないはず。で、「どちらも同じように重要(=両方が主因)だろう」としておくのが、まぁ無難な考え方だろうな、と。それを「水蒸気と炭酸ガスのどちらが主因か」というところまで踏み込んでものを言おうとすると、それくらいの「証明実験」が必要になっちゃう、ということですね。


つまり「1ハゼは水蒸気によって起きる」という文章も、前に何度か言ったことのある石脇さんや川島さんの文章に見られるもののように「表現が微妙で、多分微妙に間違ってるんだけど、そこをきっちり反論しようと思ったら、結構大変」な部類のものなんだと思います。