コーヒーさび病 基本(?)Q&A

海外のニュースにアンテナを張っている人の耳には、もう入っていると思いますが、現在(2013/2/1)、中南米各国でコーヒーさび病の被害が広がっています。


コーヒーさび病については、以前その歴史を中心に、このブログでも解説しましたが(→さび病パンデミックの衝撃)、もう少し解説してみます。Q&A形式にまとめてます。主だった情報だけ欲しい方は、Aの最初の一文だけ拾い読みしていただければいいかと思います。


大まかな解説やより詳しい解説については、以前の記事や以下のリンクを参照してください。

Q.「コーヒーさび病」って何?

A. コーヒーノキに感染する植物伝染病です。コーヒー栽培では、もっとも恐れられている病害です。


「コーヒー葉錆(はさび)病」とも呼びます。英語圏では"Coffee Leaf Rust"と呼ばれ、"CLR"という略称が用いられます。またコーヒー生産地のうち、スペイン語圏の中南米諸国では"Roya"、ブラジル(ポルトガル語)では"Ferrugem"と呼ばれます。どちらも「錆(さび)」を意味する言葉だそうです。

Q.なんでそんなに恐れられているの?

A.「樹そのものを枯らすほどのダメージ」と「爆発的に広まる伝染力」の、二つを兼ね備えているからです。


コーヒーには、さび病以外にもいくつもの病虫害があります。例えば、アフリカのコーヒー炭疽病(Coffee berry disease, CBD)や、ベリーボーラー(Coffee berry borer)と呼ばれるゾウムシの仲間による食害は、しばしば特定の産地で流行します。ひどいときでは、その年のコーヒー豆の収穫量を最大で50%-80%減少させるほどの被害になった記録があります。いくら農業自体が不安定な産業とはいえ、大雑把に言って*1、生産者にとっても「年収の5-8割カット」という大損害です。ただし、これらの病虫害は実やコーヒー豆にダメージを与えますが樹そのものへのダメージは大きくないため、次の年は、流行しなければそこそこの収穫が期待されます。


一方、土壌中の線虫(ネコブセンチュウ)や、幹に穴をあけるカミキリムシの幼虫などは、樹そのものを枯らしてしまうことがあります。俗に「桃栗三年珈琲四年」と言いますが*2、植え付けしてから収穫まで通常4年ほどを要するコーヒーでは、樹が枯れることは大きな損害に繋がります。枯れてしまった樹の代わりを植えて、収穫できるようになるまでの4年間、その分の収入が得られないことを意味するので、これも生産者にとっては大きな痛手です。ただしこれらの病虫害の多くは、病気の進行や、被害の拡大するスピードはそこまで早くはありません。早めに手を打てば「数年間にわたる、少しの減収」で何とかなるかもしれません。


これに対して、コーヒーさび病は下手をすると、2-3ヶ月で一つの農園、あるいは一つの産地のコーヒーノキをまるごと駄目にしてしまうほど、一気に広まり、しかもコーヒーノキそのものに大きなダメージを与えます。世界で初めてコーヒーさび病が発生したスリランカ(セイロン)では、わずか数年で90%以上のコーヒーノキが駄目になり、ほとんどの生産者がコーヒー栽培を見限って、生産そのものが崩壊しました。その後、スリランカが紅茶の栽培に転向したのは、良く知られています。

コーヒーさび病は、その被害規模でブラジルの大霜害*3とも比べられます。対処法の研究が進んだ現在では、実際の被害額や対策の有無では、おそらくコーヒーさび病の方がマシですが、ブラジルの高緯度地帯に特有の問題である霜害と違って、コーヒーさび病は世界中、どの生産国でも発生する危険性があるため厄介だともいえます。

*1:実際はそう簡単な問題ではなく、コーヒー豆の国際取引価格の変動が関わってきます。特に世界の総生産量に影響するほどの被害ならばなおさらです。

*2:言いません。

*3:1975年のパラナ州の大霜害では、前年の出荷量の97%減…つまりわずか3%までに減少した。

Q. 原因は何?

A. 「コーヒーさび病菌」(Hemileia vastatrix ヘミレイア・ヴァスタトリクス)というカビの一種が、コーヒーノキの葉に感染することで生じます。


この菌は「サビキン」と呼ばれるカビの仲間に属し、このグループには他にも、いろいろな植物に感染してさび病を起こすものが知られています。サビキンの仲間は、それぞれ特定の植物だけに感染・発病するものが多く、コーヒーさび病菌もコーヒーノキには感染して病気を起こしますが、それ以外にこの菌が感染可能な植物はこれまで知られていません(動物などにも感染しません)。

さび病菌全般に関しては、筑波大の山岡裕一教授のサイトが、非常にわかりやすくまとまっていて、参考になります。

Q.どうやって感染するの?(感染経路は?)

A. コーヒーさび病菌の胞子(夏胞子)が風に乗って、葉の裏側に付着(空気感染)することで感染します。


感染したコーヒーノキが発病すると、葉の裏側に新しいコーヒーさび病菌の胞子が大量にできます。これが風にのって飛散し、また雨と一緒に農園に降り注ぐことで、コーヒーノキの葉に付着して感染します。胞子の飛散距離はきわめて長く、偏西風や貿易風に乗って大陸間で伝わることも可能だと言われるほどです。1868年のスリランカでの発生には東アフリカから、1970年のブラジルでの発生には西アフリカから、それぞれインド洋、大西洋を超えてきたという説があります。また、さび病に感染して落ちた葉や地面などからも胞子が飛散して、感染すると言われています。


Q.夏胞子って何?

A. サビキンの仲間が作る、胞子のタイプの一つです。


サビキンの仲間は独特の生活環(ライフサイクル)を持っており(上述の筑波大のサイトを参照)、そのステージに応じて何タイプかの胞子を作ります。コーヒーさび病が感染するとき主な役割を担うのは、夏胞子(uredospore)と呼ばれるタイプの胞子です。夏胞子は、サビキンが無性生殖で増えるための胞子(無性胞子)の一種で、生長していくと元の菌と全く同じ遺伝子を持ったもの、いわゆる「クローン」になります。


コーヒーさび病菌の夏胞子は、「スパイクの付いた木靴」と形容される、サビキン類の中でも変わった、独特の形をしているのが特徴です(右写真 *1)。片側が平たく、片側が丸くなった半球状で、丸くなっている側に多数のトゲトゲがあり、このトゲで葉などに強く付着すると考えられています。発病した一本の樹には、数億から数十億個の夏胞子ができると言われます。

*1:Carlos Roberto Carvalho, Ronaldo C. Fernandes, Guilherme Mendes Almeida Carvalho, Robert W. Barreto, Harry C. Evans (2011): Cryptosexuality and the Genetic Diversity Paradox in Coffee Rust, Hemileia vastatrix. PLoS ONE 6(11): e26387. doi:10.1371/journal.pone.0026387 クリエイティブコモンズ-表示 2.5

Q.発病するとどうなるの?

A. 菌が葉で増殖して新しい胞子を作り、その葉は最終的には枯れ落ちます。


コーヒーさび病菌の胞子がコーヒーノキの葉に付着すると、裏側にある気孔の部分から菌糸を伸ばして、葉の組織内部に侵入します。菌糸は細胞の隙間だけでなく、細胞の中にまで侵入しながら繁殖します。菌が増殖すると、葉の裏に直径1-3mmほどの黄色みがかった斑点が現れだしますが、この段階ではまだ変化は比較的小さくて見た目ではわかりにくく、また他の病変などとの見分けも付きにくいです。



菌の生育に適した温度(20-25℃)で湿度の高い状態が続くと、葉(特に気孔部分)の外側に菌糸の一部が飛び出して、その先端にオレンジ〜黄色の夏胞子を付けます。このため、さび病変は葉の表側より、気孔のある裏側に強く現れます。大きいもので直径1-2cm程度の「さび病変」が、気孔部分を中心に、いくつも斑点状に現れます。「さび病」の名前の通り、まるで鉄に赤サビの粉が吹いたように見えます(右写真・上 *1)。一つの菌糸の先端(夏胞子堆)には約15万個の新しい胞子が作られており、生育に適した環境では、胞子が付着してから新しい胞子が出来るまで一ヶ月程度だと言われています。


さび病変に当たる部分の葉の表側には斑点が生じ、さらに病気が進行したものでは、葉の表側にもさび病変が現れます。病変は、葉の先端や周辺部から始まることが多く、最終的には葉全体に病変が広がって、葉は枯れて葉柄の部分から落ちます。生育に適した環境では、さび病は通常、下の方の枝から上へと進行しながら樹全体に広がるため、最後にはしばしば全部の葉が落ち、幹と枝だけ残った「丸裸」の状態になります(右写真・下 *2)。枝や幹、実の表面にも斑点状の病変が出現することがありますが、葉以外の箇所ではさび病変までは見られないようです。

*1:Carlos Roberto Carvalho, Ronaldo C. Fernandes, Guilherme Mendes Almeida Carvalho, Robert W. Barreto, Harry C. Evans (2011): Cryptosexuality and the Genetic Diversity Paradox in Coffee Rust, Hemileia vastatrix. PLoS ONE 6(11): e26387. doi:10.1371/journal.pone.0026387 クリエイティブコモンズ-表示 2.5

*2:Carlos Roberto Carvalho, Ronaldo C. Fernandes, Guilherme Mendes Almeida Carvalho, Robert W. Barreto, Harry C. Evans (2011): Cryptosexuality and the Genetic Diversity Paradox in Coffee Rust, Hemileia vastatrix. PLoS ONE 6(11): e26387. doi:10.1371/journal.pone.0026387 クリエイティブコモンズ-表示 2.5

Q.葉が落ちるとどうなるの?

A. 病気の程度や時期などにもよりますが、軽度の場合でも、その樹からコーヒー豆が1-2年間はほとんど採れなくなります。重度の場合、樹そのものが枯れます。


コーヒーノキも植物なので、葉で光合成を行うことで栄養を作っています。葉が全てなくなってしまうと、花や実、そして種子(コーヒー豆)を作るのに必要な栄養を作れなくなり、コーヒー豆もできなくなります。また、新しい葉が茂りなおすまでの間は、幹や枝などコーヒーノキそのものの生長も著しく阻害されるため、樹がダメージから回復するには、かなりの時間を要することが珍しくありません。このためしばしば翌年や、場合によっては翌々年まで収量の低下を引き起こします。

樹そのものが元々健康で、勢いがある状態であれば、落葉した後すぐに新芽を葺き、翌年にはある程度まで収量が回復する場合もあります。ただし、元々あまり勢いがなかった樹や、病気の勢いが著しく強い場合には、新芽を出すエネルギーを捻出できずに、そのまま枯れてしまうことも珍しくはありません。仮に枯れなかったとしても、収量低下が数年以上続くのであれば、生産者が植え替える方がいいと判断し、切ってしまうこともあります。

Q.対処法はあるの?

A. 農薬による防除や予防が有効です。また、さび病にかからない耐性品種がすでに開発され栽培されてます。さび病の特性に注目して、栽培方法の工夫で被害を軽減することも可能です。実はもうすでに、これらを組み合わせて対応されています。


野菜や果物のカビ病対策に用いられる、一般的な農薬が、コーヒーさび病にも有効であることが判っています。比較的新しく開発されている、有機化合物系の殺菌剤だけでなく、古典的な殺菌剤の一つとして有名なボルドー液でも、十分な効果を発揮します。ただし病状が進行した後では効果は低くなるため、さび病が特に発生しやすくなる雨季の直前に、ある程度予防的に散布するのが最も効果的だと言われています*1


また最初に栽培されたアラビカ種がさび病に弱かったのに対し、その後に発見されたロブスタ種(カネフォーラ種)は、さび病に対して非常に優れた耐性を示すことが判りました。ベトナムインドネシアなど東南アジアや西アフリカなどでは、ロブスタ種が栽培されています。ただしロブスタは収穫性や耐病性では優れているものの、アラビカに比べると品質がかなり劣ると評価され、安価で取引されています。そこで現在は、多くの生産国でアラビカ種とロブスタ種を交配したハイブリッドの耐性品種が作られており、中南米などでも(生産量ベースでは)ハイブリッド品種の方が主流になっている国もあります。


コーヒーさび病は、気温がある程度高くて湿度が高いほど、発生しやすく重篤化しやすいことがわかっています。コーヒーは熱帯地方原産の植物なので、気温と湿度が高いところで育つと誤解されがちですが、現在生産量の6-7割程度を占めるアラビカ種は、熱帯地方と言っても標高が高いエチオピア高地の原産で、年間を通じて15〜20℃という涼しい環境を好むため、標高 1000〜2000 m 付近で栽培されています。気温は標高に反比例するので、さび病の被害を受けやすい低標高の農園には上述の耐病性のハイブリッド品種を植え、標高の高いところには従来のアラビカ種を植える、という方法を採用している産地も多いです。またその他の栽培方法も、さまざまな形でさび病のリスクに影響することが指摘されています*2

*1:農薬使用の是非については、ややこしい問題です…というか無農薬を『異様に』信奉する一部の消費者が奇妙な主張をして議論をぐだぐだにしてるケースが大半だと思います…が、生産者側にもできれば使わずにすませたいという人は多いです。ただしそれは「安全性が〜」云々とかいう生っちょろい話ではなく、もっと切実かつ単純な、コストの問題です。そもそもコーヒーは生産者の取り分が小さいので、余分なコストは掛けずにすませたい、というのが最大の理由になっています。

*2:例えば、密集栽培すると、地表が覆われて湿度が上がりやすくなることで発生のリスクが上がり、発生時の伝染速度も早くなることが指摘されています。生産国によっては「シェードツリー」と言って、バナナなど他の植物を植えた下にコーヒーノキを栽培する地域があります。シェードツリーの影響は非常に複雑で、品質を上げるうえでは有効だという報告も国によってある一方、さび病に関しては(流行初期には有利に働く面もあると言われてますが)地表の湿度を上げ、さび病のリスクを増加させることが指摘されています。

Q.これまでも対処してたのに、何で今、中南米で流行してるの?

A. 正直言うと、情報不足でよく判りません。ただしコロンビアやグアテマラでは従来のタイプと違う点もあって、「新型か?」と言ってる人がいます。


中南米では、1970年にブラジルでコーヒーさび病が初めて発生して以降、1970-80年代にかけて各国で発生して大きな問題になりました。その結果として、中南米各国で耐さび病品種の作出が行われて栽培されるようになりました。これらの耐性品種はいずれもアラビカとロブスタのハイブリッド品種で、耐病性や収穫性の高さを保ちながら、できるだけ品質も高いものが選抜育種され、近年では従来のアラビカの香味と遜色ないと評価する専門家も増えています。しかし、初期のハイブリッド品種の低品質なイメージが根強く、未だに「ハイブリッド品種は従来のアラビカよりも劣る」という風評はなかなか市場から払拭されないため、さび病に弱い従来のアラビカの品種に対する需要も大きいままです。

そこで、上述のように、さび病のリスクが大きい低標高の農地では耐病性ハイブリッド品種をメインに、リスクが小さい高標高の農園では従来のアラビカをメインに作るという、植え分け方法が普及しました。一般にアラビカは、標高の高い農園ほど品質が高いものが採れるため、その点でもこの植え分けは理に適っていたと言えます。近年の中米では、別の病気(ベリーボーラーによる虫害と、ネコブセンチュウによる病害)の方が、さび病よりも大きな問題だと考えられていました。

2009年コロンビアの例

ところが2009年2月にコロンビア中部のノルテ・デ・トリマ州とカルダス州から、従来はさび病の発生があまり見られなかった農園で、カトゥーラという従来品種に、ひどいコーヒーさび病が発生したという報告がありました(http://www.promedmail.org/direct.php?id=20090225.0773)。その状況や、従来のさび病よりも被害拡大のスピードが早いことから、新型のさび病が発生したのではないかという噂が流れました。翌2010年5月にはコロンビア南部のナリーニャ州で、同じくコーヒーさび病発生の報告が出ています(http://www.promedmail.org/direct.php?id=20100526.1745)。

2011年グアテマラの例

その後、2011年11月にグアテマラから(http://www.agra-net.com/portal2/home.jsp?template=newsarticle&artid=20017921013&pubid=ag049さび病流行が発生したという報告がありました。2012年5月にグアテマラの続報(http://www.promedmail.org/direct.php?id=20120511.1129720)が出た際は、ロイターでも取り上げられ(http://uk.reuters.com/article/2012/05/08/guatemala-coffee-idUKL1E8G7ODJ20120508)、ここで「従来より高い標高で発生している」「従来の殺菌剤に抵抗性かもしれない」などという記載が見られます。

それ以外での発生

とりあえず、コロンビアとグアテマラ以外では、下記の地域で発生した報告やニュースが出ているようです。多分、これからも増えることでしょう。ニュースで一文記載されてる情報レベルであれば、メキシコやニカラグアでも発生している可能性があります。ただしいずれの場合も、新型を疑わせるような具体的な記述は必ずしも見られません。


状況的に現在は、グアテマラで流行しているのと同じタイプのものが中南米で流行している可能性が高いと思われます。しかしグアテマラのものも、あくまで「談話」の域を超えず、新型なのかどうかの判断はできないのが現状です。

Q.コーヒーさび病にも新型とか旧型とかあるの?

A. コーヒーさび病菌には、これまでに40種類の型(病原型, pathotype)が報告されてます。


コーヒーさび病には、複数の「型」があることが判っています。現在までに40種類の系統(race)が見つかっており、それぞれ、Race I, Race II …Race XXXXという風に、ローマ数字で名付けられています。これらの型の違いは、ポルトガルに「さび病研究所(CIFC)」が設立した直後、1950年代に、いろいろな国、いろいろな年に発生したコーヒーさび病菌を集めて分類した方式を継承しています。

コーヒーノキの仲間には、野生種や栽培種を含めていろいろな品種がありますが、さび病菌の種類によって、それぞれが病気を起こせる品種に違いがあります…ある種のさび病菌はいくつかのコーヒーノキには感染せず、また別の種類のさび病菌はいくつかの種類のコーヒーノキに感染はできるが軽度、と言った具合に。こうして、それぞれのさび病菌がどの品種に感染できるかをまとめた結果から、グループ分けされました。これは、病原性の違いから分類したものなので「病原型」と呼ばれてます。


現在、世界的にもっとも広い地域で流行しているのは「Race II」と呼ばれている古いタイプで、ロブスタ以外のいくつかの部分的耐病品種*1でも有効です。CIFCが分類する以前に、インドの研究者Mayneが分類した「Mayne's race 1」と呼ばれていたものと同一の系統で、19世紀に東南アジアで猛威をふるったものと同じか、非常に近い系統だと考えられています。

特にラテンアメリカで流行する株は、少なくとも近年までは、ほとんどこのRace IIだけです。ただしブラジルではこの他、Race IやRace XVなどが分離されることがあり、世界的に見ると、Race II (58%), Race I (14%), Race III (9%), Race XV (4%)…の順に発生頻度が高くなっています。いちばん多くの型が見られるのは、インドや東ティモールなどの東南アジア地帯です。またさまざまな種類のコーヒーノキの仲間(コフィア属)が自生しているアフリカ大陸でも種類が豊富です。


今回、もし新型が発生したのであれば、おそらく41番目の型になる……といいたいところですが、この分類法はかなり古い方法なので、ひょっとしたら別の分類法に置き換わっていく可能性もあります。この「病原型」での分類は、あくまで耐性品種とのマッチングを基準にしたものですから、例えば、「病原型的にはRace IIと同じなんだけど、高標高に適応した新型」みたいなものは、この分類法では区別できませんので。

*1:リベリカやケントなど

Q. 新型発生のメカニズムは?

A. よくわかってません。というより、そもそもコーヒーさび病菌の生態に不明な点が多く残ってます。


先述したように、コーヒーさび病菌は夏胞子で感染・増殖します。このとき増えるのは、すべて同じ遺伝子を持ったクローンであり、そこで新型が生まれる可能性は低いだろうというのが一般的な考えです。カビの仲間は通常、この夏胞子のような無性生殖の世代以外に、有性生殖の世代を持っています。サビキン類も同様です。サビキン類には無性生殖世代と有性生殖世代とで、寄生する植物の種類が異なるケースが多く知られています。コーヒーさび病菌の場合も、担子胞子という、有性生殖の一歩手前で作られる胞子(ヒトで言えば精子卵子に近い)をコーヒーノキに振りかけても感染しないため、何か別の、まだ見つかっていない有性生殖世代の宿主がどこかにいるはずだと考えられています。


無性生殖ではクローンだけが増えるのに対して、有性生殖で生まれるのは、両親の遺伝子を受け継いだ子どもになります。それで遺伝子の組み合わせに変化が生まれるため、有性生殖で新型が発生する可能性が高いと言えます。「有性生殖世代の宿主探し」が、新型発生のメカニズムの解明にもつながっているのです。


この「もう一つの宿主探し」の研究は長年続けられていますが、なかなか成果が上がってないのが現状です。最近では「有性生殖に頼らずに、新型が発生しうるメカニズム」を提唱しようとしている研究グループもあります(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22102860)。

Q. 今回のは新型なの?

A.現時点では情報不足でわかりません。新型以外の可能性もありえます。


2009年からコロンビアで流行していたものについては、2012年に中〜南部(トリマ、カルダス、カウカ、アンティオキア)で採取されたコーヒーさび病菌の解析した結果が発表されました(http://www.ndrs.org.uk/article.php?id=025019)。

2008-2011年に採取された30種類のうち、28種類は従来と同じ病原型(Race II)であり、残りの2種類はこれまでの病原型には当てはまらなかったものの、感染のスピードも従来のものとは変わらず、これまでのハイブリッド耐病品種には感染できず、遺伝子上の違いも証明できませんでした。したがってコロンビアのものが新型であった疑いは、完全には拭いされないものの、積極的に支持できる証拠はなかった、ということになります。


また、そもそも「標高の違いで、さび病の被害が変わる」というのは、標高の違いによる温度の違いによるものですし、さび病の発生は、気温や降雨などその年の気候にも大きく左右されます。近年は、気候の変動が激しいため、たまたまそれがさび病の発生時期に重なった可能性なども考慮する必要があるでしょう。

また、近年では「スペシャルティコーヒー」と呼ばれる、生豆の高品質さと個性を重要視する動きが強まっており、その流れで「昔ながらの品種」を要求する声が高まったという背景があります。需要の増加によって、それまでは耐病品種を植えていた農園でも、従来の(さび病に弱い)品種の作付けを増やすなど、品種のシフトが起きていた可能性も無視できないでしょう。

Q. 今後、コーヒーの値段が上がったりするの?

A. 相場の値動きを予想するようなものです。関係する要素が他にも多くて複雑なので、僕には判りません。


日本国内での値段で言えば、インフレや円安の影響の方が大きそうな気もするのですが…