『田口護のスペシャルティコーヒー大全』紹介(8)

提供した図版の2つ目は「フレーバー(アロマ/テイスト)チャート」…「焙煎による香味成分の変化」を大まかに知るための早見表です。コイツは、百珈苑の「コーヒー・味の化学」で、ほんのさわりだけ紹介してる図の、ほぼ全容に当たります。

さまざまな食品・料理を科学の目で解き明かし、分子レベルで解析しようとする学問分野は、「分子美食学(分子ガストロノミー分子調理学)」と呼ばれています。このチャートは、分子美食学的なコーヒーへのアプローチだとも言えます。


香り成分についての「焙煎アロマチャート」と、味成分についての「焙煎テイストチャート」に分かれています。アロマチャートは、百珈苑の方でもこれまで伏せてたので、これが初公開です。特に、香りの表現に特徴のあるスペシャルティコーヒーに興味のある人にとっては、このアロマチャートの方が興味深いかもしれません。


アロマチャートの方は、早い話、(1) Groschらの論文*1と、(2)Escherらの論文を下敷きに、(3)Flamentの"Coffee Flavor Chemistry"と (4) SCAAフレーバーホイールの情報を加味して、独自に「再合成」した図に当たります。

テイストチャートの方は、苦味成分については、主にHoffmanらの論文を中心に位置づけ、さらに中林先生の『コーヒー焙煎の化学と技術』をベースに加えて、とりあえずまとめたものです。酸味等については、中林先生の総説と、Clarkeの"Coffee:Recent developments"に基づいて解釈しています。

どちらも論文のデータそのままでは、一般向けの読解が難しいので、それを解説するための図版……いわゆる「見える化」ってヤツですね*2


コーヒーの香り成分の種類は、ものすごくたくさん(1000種類近く)あるので、アロマチャートの方では、Groschらが「コーヒーの焙煎豆で特に重要」と位置づけた、約30種類程度の香気成分を中心に、さらにスペシャルティでしばしば注目される香りの要素を少し強調するかたちで表しています。一方、焙煎途中で一過的に出てくるようなものや、オフフレイバーについては扱いを小さく、ないし割愛しています。

また、チャートにはそれぞれのプレカーサー(前駆物質)についても大まかに*3示しています。生豆中に存在するこれらのプレカーサーの量とバランスが、スペシャルティコーヒーでは特に「豆の個性」として重要視されます。生豆に含まれる「プレカーサー」の量とバランス、それに焙煎が組み合わさる事で、さまざまな香味が生まれてくるのだということを、このチャートは表しています。


…まぁ、とは言っても、こんなもんは論文に基づいた只のデータにすぎません。これまでの焙煎経験から、田口氏がこのデータを如何に読解し、彼のシステム珈琲学とどのように融和していくのか……そして読んだ人が自分の(スペシャルティ)コーヒーの焙煎にどう活用していってくれるのか、今、僕の関心はそっちにあります。

*1:詳しい出典については書籍の巻末に記載してます。

*2:ただし、実を言うと、図示した香味成分中には、まだ十分な文献が出ておらず、無理にまとめた部分もあって、今後まだ改良の余地があると思ってはいます。

*3:これもチャートにまとめるに当たって、化合物群やプレカーサーをある程度無理矢理まとめてる部分はあります。