ブラジル人は黄色がお好き?

上述のカトゥアイもそうだが、ブラジルの品種には、赤実種(Vermelho、ヴェルメリョ)と黄実種(Amarelo、アマレロ)の両方があるものが多く存在する。ブルボン、カトゥーラ、カトゥアイ…耐さび病品種のトゥピ、オバタン、イカトゥまでそうだ。


元々コーヒーの実は赤系で、熟するにしたがって黒っぽく、濃赤紫色へと変化していくものであった。黄色に熟する変異種は、1870年頃にサンパウロのボツカツという町で見つかった、イエローボツカツ(Yellow Botucatu, Amarelo de Botucatu、アマレロ・デ・ボツカツ)がその最初だと言われている。その後、マラゴジッペやブルボン、カトゥーラなどでも同様の黄実の変異種が見つかっている。これらの変異種はいずれも、同じ遺伝子変異によるものだと考えられており、果実の色が赤、黄色のどちらになるかは、このXc遺伝子 (= xanthocarpa)によって決定される。この辺りは、以前「ピンクブルボン」のとき(http://d.hatena.ne.jp/coffee_tambe/20100209/)にも述べた。


何故一つの品種に赤だけでなく、黄色もあるのか、ということになるが、単に綺麗だからとか、ブラジルと言えばカナリア・イエローだとか、そういう理由ではない。実は以前は「赤実種に比べて、黄実種の方が(若干ながら)収量が高い」と言われていたのだ。当時は一般に黄実種の方がまだ珍しく、また黄色(xcxc)と赤色(Xc−)を交配すると、赤が(不完全優性だが)優性になることもあって珍重されたという背景もあるだろう。このような背景から、「赤でもいいけど、どっちかと言えば黄色の方が…」といった風潮もあったと思われる。


ただしその後、カンピナス試験所で解析が行われた結果、果実の色だけが違う品種同士で比べた場合、収量に差があるとは言えない(=誤差の範囲内)ということが明らかにされた。Xc遺伝子は果実の色には関係するが、収量には影響しないということで、まぁ納得のいく話である。

ただし、じゃあ色以外には全く影響がないか、というと必ずしもそうとも言い切れないようだ。元になっている品種によっても違うのだが、例えばイエロー・ブルボンとレッド・ブルボンを比較した場合、黄色い果実の方が早く熟する、ということが明らかになっている。このことを、どう品質と結びつけて評価するかとなると難しく、全体から見ると「微妙な違いの一つ」に過ぎないと捉えておくのが、まぁ妥当な線だろうと思うが、「全く同じ」というわけではない、ということである。