良いとこ取りのカトゥアイ

ムンドノーボの欠点である「樹高の高さ」と、カトゥーラの欠点である「サンパウロでの生長の悪さ」を互いに補うために交配が行われた。ムンドノーボをベースに、カトゥーラ由来の矮性遺伝子Ctを導入するため、両者を交配した後で、ムンドノーボとの戻し交配を繰り返した。その結果として、両方の良い点を受け継いだ品種が作製され、1972年に正式にリリースされた。これが加藤あいカトゥアイ(Catuai, Catuaí)である。

なおこのとき、赤実種のレッド・カトゥアイ(Red Catuai, Catuaí Vermelho、カトゥアイ・ヴェルメリョ、加藤あい)と黄実種のイエロー・カトゥアイ(Yellow Catuai, Catuaí Amarelo、カトゥアイ・アマレロ、阿藤快)の両方が同時にリリースされている。


このカトゥアイこそ、ブラジルで行われた品種改良の、一つの集大成と言ってもいいだろう。

カンピナス試験所で行われた研究は、カトゥーラの持つ矮性が単一の遺伝子*1"Ct" (=cattura)によるものであること、それが優性である(CtCtとCtctが矮化し、ctctは正常)ことを明らかにした。そこで、サンパウロの風土に適応したムンドノーボに、このCt遺伝子だけをホモ(CtCt)の状態で導入するために戻し交配を繰り返し行った。これは古典遺伝学では定石の手段にすぎない。ただしコーヒーでは一世代に4年かかることを思い出して欲しい。最初の交配をスタートしたのは1949年なので、そこからでも23年。ムンドノーボの作出から考えると実に30年もの歳月を経て、ようやく生まれた品種なのである。


苦労の甲斐あって、カトゥアイはブラジルで最も人気が高い品種の一つになった。ムンドノーボの生命力に加えて、カトゥーラの持つ収穫しやすさが加わったのだから。さらにこの「生命力/成長力が強い」という性質は、隔年性を弱めるというメリットも生じた。

*1:ここで言う「遺伝子」とは、現在主流の分子生物学で用いられる「一つのgene」を指す用語ではなく、古典遺伝学的な「遺伝的形質を担う因子」の意味である。