選ばれたムンドノーボ

ある意味で、カトゥーラと対照的なのがムンドノーボである。ムンドノーボには、カトゥーラの「節間短縮」のような、特筆すべき優れた遺伝的要因は何もない。しかし「サンパウロの気候風土に非常に合った」品種である。


ムンドノーボは、インドネシアから移入されたティピカである「スマトラ」とブルボンとの交配によって生じた品種である。1943年にサンパウロのムンドノーボ地区で交配が開始されたことから、この名がある。実際にリリースされたのは1952年のようだ*1サンパウロの気候に非常に適合しており、優れて"vigor"…生命力に満ち、成長が旺盛であり…収量も非常に高い品種であった。それゆえにカンピナス農業試験所では、将来有望な品種だと考え、ブラジルの主要栽培品種として推奨した。以降、現在でもブラジルの人気品種の一つである。


またムンドノーボに由来する品種にアカイア(Acaiá, Acaia)がある。これはムンドノーボの交配を続ける過程で、果実と種子が大型のものだけを選別していったもので、1977年にリリースされたものである。アカイアもムンドノーボに並ぶ人気品種の一つだ。


ムンドノーボはサンパウロに「ぴったり」と合った品種だったと考えられる…このため旺盛な生長を示しすぎて、一般的なアラビカとしては樹高が高めになる欠点があったようだ。ただし、この「生長の良さ」はあくまでサンパウロという環境に限ってのことであり、必ずしも他の土地にマッチすることを意味しない。実際、他国での栽培では他の品種に比べて、大きな優位性は認められず、ムンドノーボはブラジル以外ではほとんど栽培されていないのが現状である。

その数少ない例外が日本、沖縄である。現在栽培されている沖縄のコーヒーノキは、ブラジルから持ち込まれたもので、ムンドノーボ由来と思われる赤実種と黄実種(New World No.1 とNew World No.2)のようだ。ただし、あくまで個人レベルの小規模な栽培であり、多数の品種を比較した上でムンドノーボを選択したというわけではなさそうなので、沖縄の風土にマッチした品種かどうかは判らない、というのが正直なところだ。

また、サンパウロでのムンドノーボの持つ"vigor"な特性は、品種改良の上でも有用な資質としても受け継がれた。このため、ムンドノーボは単独で栽培されただけでなく、別の品種を掛け合わせる「土台」として、新たな品種を作製することが試みられた。

*1:なお当初、ムンドノーボでは本来、種子が出来るべきところに種子が出来ずに空っぽになる(空き部屋化?)欠陥が多かったことが報告されている。この欠陥はカンピナス農業試験所での研究で、その原因が遺伝的なものであることが明らかにされた。遺伝子D (= devoid)で表されるこの形質は、DD、Ddでは正常に発育するが劣性ホモのddになったときに「空き部屋化」し、子孫を残せなくなる。当初のムンドノーボには(おそらく突然変異によって生じた)この遺伝子がヘテロの(Ddを持っている)ものが混じっていたと考えられており、後にDDのものだけが選別されて、この問題は解決されている。