「カネフォラ」vs「カネフォーラ」

ラテン語の発音を確認してみた。ソースは、"A Dictionary of Latin quantities" by William Moseley (1827)。ラテン語は、表記だけからは長母音と短母音の区別が付かないので、こういう文献で調べる必要がある。

#こういうのが、居ながらにして参照できるのがネットの素晴らしさだとつくづく思う。


元々、Coffea canephoraの種小名"canephora"はギリシャ語のKanephoros (http://en.wikipedia.org/wiki/Kanephoros) から来たラテン語の名詞で「籠を運ぶ人」、それも、身分のある人に仕えて頭の上に籠をのせて運ぶ少女を意味する。

#なんで、それが学名に付けられてるのかはよく判らない…ここで「ひょっとしたら、枝にたくさんの実が固まって成る様子がそういう風に見えたのかもしれない…」とか言うと、そのうち勝手に広まりそうな気もする(笑)


学名における種小名は種形容語とも言って、直前の属名を修飾する形容詞であることも多いのだけど、この場合全体的な発音は名詞ということで扱った方がよさそう。


で、上述の文献によると、

p.75 "A before N is SHORT in the first syllable of nouns:"


pp.140-141 "But E before P is sometimes LONG in the middle syllables of nouns: (中略) It is also long in asclepias, cacephaton, canephora..."


p. 241 "O before R is LONG in the middle syllables of nouns:"

ということなので、ラテン語の発音的には「カネーフォーラ」というのが近い模様。このうち、真ん中の"E"が例外的に長音になっていて、それ以外は通則のまま(通則に従って読むとカネフォーラ)。


…とまぁ、ラテン語の韻律辞書まで持ち出してきたけど、実は学名の読みは割とみんな「好き勝手」でOKというのが現状だったりするので。「カネフォラ」でも「カネフォーラ」でも「カネーフォーラ」でも好きに読めばよかったりする。ただ、文字として書く場合にはある程度、統一性を持たせた方がいいわけで。


例えば、先日の成美堂のムックでは、Psilanthus属を「プシランツス属(ラテン語読み)」にするか「シランサス属(英語読み)」にするか、C. eugenioidesの種小名を「エウゲニオイデス(ラテン語読み)」「ユージニオイデス(英語読み)」「ユーゲニオイデス(ラテン語寄り)」「ユウゲニオイデス(ラテン語寄り)」のどの表記にするかは、結構悩んだところだったりする…特にeugenioidesでは「ユージノイデス」という、英語にしてもラテン語にしても無理のあるカナ表記を(誤って?)使ってるところがあるので。…とまぁ色々考えて、僕が書く文章では「全体として、ラテン語寄りに統一」しておこうと考えてたわけです。

で、この基準に従うと、canephoraは英語読みなら「カネフォラ」、ラテン語読みは(通則的に考えてたので)「カネフォーラ」だと思ってた、と……まぁ、今後「カネーフォーラ」に切り替えるのか、と言われると、そもそも現在の日本でそういう表記を使ってる人はほとんどいないだろうし、過去の日本語表記の通例にならって「カネフォラ」か「カネフォーラ」で、やっぱりラテン語寄りということにして、当分は「カネフォーラ」表記を使っていこう、と決意を新たに(?)したのだった。