…続きの雑談

ただまぁ、フレーバーコーヒーさんが指摘してる、プレスや金属フィルターの件については私も割と似たような感想を持っている…というかですね、以前も書いたのだけど、(まぁエスプレッソは別として)抽出方法そのものについては、ある意味、日本ほどマニアックに掘り下げてるところは例を見ないんです(なので、上で挙げたドイツのグループの学会発表を見たときにはちょっとだけ驚いた…まぁ他の国ならぬドイツならばあってもおかしくはないかも、とも思わなくはないんですが)

これには、多分いくつかの理由があると思います…あくまで主観的なものですが、

「卸し制」の普及
日本では焙煎会社(ロースター)が個々の喫茶店に対する「卸し」の役割を担っているが、欧米ではむしろ喫茶店を直営する形態がずっと主流。このため、日本では喫茶店が品質上の差別化を図るために「抽出」に注力する度合いが高まる(欧米方式だと、まず生豆の品質や焙煎の方でコントロールしようという発想になる)
    • ちなみに「生豆7割焙煎2割抽出1割」というのは、この卸し制の普及によって「抽出」偏重の傾向が強かった当時に、それに対するアンチテーゼとして作られた「キャッチコピー」だと認識してます。以前、掲示板で指摘したこともあったのだけど、このフレーズは科学的な観点から言うと正確性には劣ると考えてますが、ただ「判りやすくアピールするためのキャッチコピー」が必要な時代があり、そのときには非常に有用なものだった、とも思ってます。
高品質生豆の入手や焙煎での立ち後れ
現在はともかくとして、なんだかんだ言って日本のコーヒー業界は戦後からようやく駆け上がってきた、世界的に見ても後発的なもので、特に初期には良質な生豆を得ることも難しく、自家焙煎店の多くも、自ら手探りでその独自の方法を模索しつづけてきた点が大きい。このため、特に初期には良質な生豆、焙煎豆でなくても美味しく淹れることが出来るよう、抽出方法の改良も続けられた。
香りより味にウェイトが置かれる傾向
上の2つとも関連するのだけど、生豆の品質があまり良くなく、さらに卸し制などのために「新鮮な焙煎豆」に消費者が直接出会う機会が少なかったことなどから、「コーヒーは生鮮食品である」という認識が広まったのは割と最近のこと。コーヒーは鮮度が落ちると香りの面でのロスが大きく、「香りに優れた」コーヒーに接する機会が少なかった分、味覚面での善し悪しについての評価が相対的に大きくなる。これに比べると、ヨーロッパでは古くから、またアメリカでもSCAAの活動により「香り」に対して重視する傾向が強く、いわゆる「雑味」が多少出るような抽出法であっても、あまり気にしない傾向がある。
ガラパゴス化
日本のコーヒーに関する知識自体が世界的な潮流から隔絶されてきたという点。特に世間に広まる知識といえば、当初はロースターからの情報だけだったが、ロースターはその業務形態上、知識を「秘密」にしておいた方が競争上有利な点も多いわけで。実際には、小規模自家焙煎業者、市井の好事家や研究者による著書などの「限られた情報」に頼ってきた(インターネットの普及によって、この構図は変わりつつあるわけですが)。このため、コーヒーサイフォンの認知度が異様なほど高いなど、世界的に見ると異様なほど知識が偏ってて、特殊な点が多い。ドリップにしてもそうで、カップ一杯立てでドリップをする、というケース自体が世界的には実はあまり多くない。ペーパードリップはそこそこメジャーだけど、多くはコーヒーメーカー用のものだし、ネルに至っては大量にドリップするときに使うもの、またはボイルした後で漉すためのもの、という認識の方が多い。
そもそも……
日本人自体にマニアックなヤツが多い(笑)


まぁそんな感じで。日本では、何の目新しさもない抽出法(ペーパー然り、ネルドリップ然り)であっても、いずれもそういった先人たちの試行錯誤の賜物だったりします。もちろん、その中には根拠レスなものとか、眉唾ものも含まれてはきたのだけど、「現在、主だって言われていること」については、それなりに根拠のあることは多いと考えてます。


ただ、そこらへんの「凄さ」はまだあんまり世界的にアピールされてないし、何より世界にきちんと認めさせるには「本当にきちんとした科学の手法」でアピールする、というのが今は必要とされるんです……例えば「ほら、こうやって淹れたら美味しくなるでしょ?」というのでは全然説得力がなくて、あちらさんに「気のせいだ」と言われたら終わり、ということにもなりかねない……抽出条件の違いを、出来るだけ「一要素」だけに絞りこんだ上で、最低限、二重盲検での結果を示し…というようなことが必要になってくるんですけどね。


ここらへんをきちんとした暁には、日本式のコーヒーが、イタリアのエスプレッソとはまたベクトルの異なる「洗練された飲み物」だということが、世界的に認められる日も来るんじゃないか、と考えてます。またそうして海外の評価が高まったら、国内でも「昔ながらのコーヒー」に対して再評価されるようになるんじゃないかなぁ、とも思ってみたり。こういう「日本での評価は今イチだったものが、海外で高く評価され、国内でも再評価される」って現象は、他の分野でもよく見かけるものだし、そういった形で「(昔ながらの)喫茶店回帰」「ドリップ回帰」というムーブメントが生まれたら、それも面白いんじゃなかろうか、と。まぁ、僕はエスプレッソもそれはそれで好きなんで、「ドリップに回帰しよう!」というよりは「多様性を維持しようよ」という方が、考え方としては近いんですけどね。


この辺り、実験のアイデア自体は大体固まってきてるので、後は(1)機器&実験系と、(2)人手と、(3)時間と、(4)予算、さえあれば……って、足りないものばっかりじゃん(笑)。