クロロゲン酸の別名

クロロゲン酸 chlorogenic acid には、化学物質の例に漏れず、別名としていくつかの慣用名が存在する。代表的なものに、「5-カフェオイルキナ酸」 5-caffeoylquinic acid があるのだけど、この表記が意外とややこしかったりする。

例えば、中林先生の『コーヒー焙煎の化学と技術』では、これに「カフェイルキナ酸」という表記を採用してて、最近出てる本でもこれと同じものを使ってるのが多いのだけど……うーん、正直、時代外れなんだけどなぁ…と。さらに最近見た中では、『分子細胞生物学辞典』の新版で「5-カフェイルキニン酸」という表記になってるのを見てぶっとんだりして。


元々、クロロゲン酸はカフェー酸 caffeic acid とキナ酸 quinic acid のエステルなので、この手の別名が付いてるのだけど、この際の英語名のルールとして、"-ic"は "-yl"か、"-oyl"のどちらかに語尾が変わるわけです。そのどちらに変わるかには少し曖昧な部分があるもんで、"caffeic"というのを、"caffeyl"と"caffeoyl"のどちらにするかが、昔は人によって違ったわけです。

でも現在の状況はどうなっているかというと、例えばPubMedhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?)で検索してみると一目瞭然。

chlorogenic (1374件) > caffeoylquinic (217件) > "caffeoyl quinic" (36件) > caffeylquinic (1件) > "caffeyl quinic" (0)

というのが専門分野での状況ってところ。


コーヒーの分野では他にも似たようなのがいくつかあって(例えば、p-ビニルカテコールじゃなくて、4-ビニルカテコールだろ、とか)、いつまでそういう時代遅れな表記を続けるのかなぁ、と思うこともあったりするのだけど。まぁ、特に日本のコーヒー業界ではあんまり化学に詳しい人がいないみたいなのがなー……かと言って、バリバリ化学寄りの、それこそIUPAC原理主義みたいな人が出てきても困るのだけどね ;-P