はじまりの物語 (12)

#ゲマルディンことジャマールッディーン・アブー・アブドゥッラー・ムハンマド・イブン・サイード・アッ=ザブハーニー(←長い)の謎に迫る、その1


さて、再び「三大伝説」の話に戻ろう。


三大伝説の三つ目(III-c)が、アデンの律法学者「シェイク・ゲマレディンの伝説」である。コーヒーに関する歴史的文献には必ず記載されている内容なのだが、とりあえずユーカース『オール・アバウト・コーヒー』のコーヒー関連年表の記述で簡単に紹介しよう。

1454[L]―Sheik Gemaleddin, mufti of Aden, having discovered the virtues of the berry on a journey to Abyssinia, sanctions the use of coffee in Arabia Felix.

(from Ukers "All about coffee" 1st ed., 1922 'A Coffee Chronology' http://www.web-books.com/Classics/ON/B0/B701/42MB701.html)


(邦訳) 1454年頃 - アデンのムフティで、アビシニアへの旅行中にコーヒーの実の効き目を発見していたシェイク・ゲマレディンが、アラビア半島でコーヒーの利用を是認する。


『オール・アバウト・コーヒー』の「コーヒー飲用初期の歴史 (Early History of Coffee Drinking)」の章 http://www.web-books.com/Classics/ON/B0/B701/08MB701.html にも書かれているが、その内容も大体同じである。他の文献では年代を特定しているものは少ない(この「1454年頃」については後で論じる)ものの、その大意は変わらない。


「三大伝説」の他の二つ、すなわち「山羊飼いカルディの伝説」と「モカ守護聖人シェイク・オマールの伝説」と比べて、この「シェイク・ゲマルディンの伝説」には、伝説らしさというか、おとぎ話っぽさというか、そう言った「ストーリー性」はほとんど見られない。また、他の話が地方の言い伝えや巷説を元にしているのに対し、この話については「誰がそう言ったのか」という出所が非常にはっきりしている。このため研究者たちからは、他の二つとは一線を画した、より史実に近いものだと考えられている。