インド・モンスーン

「品種」とは少し違うのだが、インドには「モンスーンド・コーヒー Monsooned Coffee」あるいは「インド・モンスーン」と呼ばれる独特のコーヒーがある。これはインドからヨーロッパに運ばれていた当時の、伝統的な製法に従うものとされている。「モンスーン」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%B3)というのは、いわゆる「季節風」のことであるが、ここでは特に、夏期にインド洋からインドの内陸部に向けて吹く、南西の季節風(インドモンスーン)のことを指す。インド洋の湿った空気を大量に含んだ季節風は、インドに雨季をもたらすものである。


元々「モンスーンド・コーヒー」とは、このモンスーンの時期に収穫され、船便でヨーロッパに送られていたコーヒーを指す。ただし、それは単に「モンスーンの時期に収穫された」というだけのことではない。インドの「モンスーンド・コーヒー」とは通常の生豆より大きく膨らみ、生豆の色もしばしば通常より白みがかっている。当時これは、湿気を含んだ潮風に生豆が晒されることで生じる変化だと考えられ、この「モンスーン処理 Monsooning」を受けることで、インドのコーヒーは独特の風味を生じると考えられていたのである。


近年、インドの研究グループが、この「モンスーン処理」について、いくつかの研究を報告している。その結果、彼らが発見したのは「果実から生豆を精製するまでの保存期間」に生じる変化であった。モンスーンド・コーヒーの場合、収穫された果実はそのまま麻袋に詰めて平積みにされた状態でしばらく置かれ、しかる後に精製されるのだが、この「平積み」のときに、モンスーン気候独特の高湿度の環境に晒されることが、「モンスーンド・コーヒー」が出来るために重要であることが判明した。近年では、より効果的に「曝気」するため、麻袋の間には空気の通り道が出来るように積み上げられるという。いずれにしても、この季節に収穫されたインド南西部のコーヒーだけに可能な「処理」である。


高温高湿の状態で積まれている間に、果実の発酵*1は進み、生豆の水分含量も通常であれば10-12%になるところが、18-20%にまで上昇する。これによって、生豆は大きく膨らみ、また果実の発酵に伴って独特の香味が生じると言う。少し詳しい人ならば、近年実用化されているパルプド・ナチュラル方式の生豆精製を思い浮かべるかもしれない。近年のインドでは、この独特の風味に注目し、モンスーンド・コーヒーを「スペシャルティコーヒー」の一つに位置付けている。

*1:発酵というと、欠点豆である「発酵豆」を連想するものもいるかもしれないが、ここで起こるのは別物である。水洗式での粘質層の水中微生物による分解も「発酵」であるように。