さび病耐性品種の発展

オールドチックに代わって、1870年代からインドで栽培されたのが「クールグ Coorg」と呼ばれる品種である。おそらくはオールドチックに由来すると思われるアラビカ種で、比較的標高の低い、クールグ地区の農園で見いだされたことから、この名がある。クールグは当初、さび病に強いことから、オールドチックの代わりに栽培されていったが、品質的にはあまり高くはなかったようだ。しかも数十年経つと、クールグもまたさび病にやられてしまう。クールグの耐性は部分的なものであったため、後に出現した新型さび病の前に屈してしまったのである。


クールグに代わって、1920年代から栽培されるようになったのが、以前(http://d.hatena.ne.jp/coffee_tambe/20100613
ケニアの回でも触れた「ケント Kent」である。1911年、インドのマイソール地区にあったケント氏の農園で発見された耐さび病品種である。ケントは当時インドで栽培されていた、いずれかの品種が突然変異して生じたものだと考えられている*1。しかし栽培されるようになって10年ほど経つと、ケントも新型さび病の前に屈してしまった。


1925年、イギリス統治下のインドでCoffee Board of Indiaが設立され、耐さび病品種の本格的な研究が始められた。インドには、リベリカやロブスタをはじめ、後にはエチオピアからの探索で得られたアガロやカファなど、さまざまな品種が集められ、選抜と育種によって耐さび病品種の開発が行われた。その過程で有望なものとして見いだされたのが、以前(http://d.hatena.ne.jp/coffee_tambe/20100517)述べた「Sライン」の品種群、特にS.288S.795*2である。


インドにおける耐さび病品種の開発からは、その候補になると有望視された品種がいくつか見いだされた。しかし残念ながら、すべてのさび病に対して有効な品種の発見では、ポルトガルに先を越されてしまう。ポルトガル東ティモールの農園で「偶然」発見された一本のコーヒーノキ「ハイブリド・デ・ティモール」はさび病に対する「救世主」になり、耐さび病の研究という面でも、ポルトガルのCIFC (Centro de Investigacao des Ferrungens do Caffeiro)が世界の中心的な役割を担うようになった。ただしインドでの研究成果はCIFCにおける研究の基礎として、さび病のみならず、後の遺伝学的、分子生物学的な研究へもつながっているのである。

*1:その耐さび病遺伝子はSH2と名付けられた優性の遺伝子であり、ケントあるいはケントに由来する品種(S.795やケニアK7など)だけに見られる。

*2:"S."はSelectionの略。