クローンの弱点

商業栽培においてクローン化された作物の持つメリットは大きいが、その一方でデメリットもある…というより、遺伝的に同質であるがゆえの落し穴として、しばしば致命的とも言えるほど大きな弱点、あるいは脆弱性、を抱え込むことが多い。
万一、その作物を好んで食害する昆虫や、その作物に好んで寄生するカビなどの微生物が生じた場合、それらの病虫害が一気に「クローン全体」に襲いかかることになりかねないからだ。


実際、農業の大規模化とモノカルチャー化が進んだ近代において、このような事例が何度も繰り返されてきた。

実際の事例については、ニコラス・マネーの『チョコレートを滅ぼしたカビ・キノコの話』(小川真 訳)に詳しい。
http://www.amazon.co.jp/dp/4806713724

よく知られた例を挙げるなら、

  • アイルランドを襲った「ジャガイモ飢饉」
  • フランスのワイン産業を危機に追いやった「ブドウ根アブラムシ病」
  • そして「コーヒーさび病


イエメンから世界に広まっていったアラビカ種のうち、ティピカとブルボンは「二大品種」とも呼ばれるが、これらはいずれも元を辿れば、それぞれたった一本のコーヒーノキに辿り着くとされる。ティピカはド・クリューがマルチニーク島に伝えた1本のコーヒーノキ(さらに元を辿れば、アムステルダムからパリに送られた1本の木)、ブルボンはイエメンからレユニオン島(ブルボン島)に送られ、そこで根付いた2本のうちの1本のコーヒーノキ。19世紀、世界中に広まったコーヒーノキのほとんどが、そのどちらかの「クローン」であった。


そして、そのクローンに対して致死的なダメージを与える「コーヒーさび病菌」Hemileia vastatrixhttp://en.wikipedia.org/wiki/Hemileia_vastatrix)の出現と蔓延によって、東南アジアのコーヒー栽培は壊滅的な被害を受けた。ここから「さび病耐性品種」の探索が始まり、さらには前回(http://d.hatena.ne.jp/coffee_tambe/20100510)のロブスタ発見の話へとつながっていく……


「アラビカは自家受粉可能」というたった一言も、植物学的な視点を交えて紐解いていけば、ここまで大風呂敷が広がる、ということで。