コーヒーノキの分類と伝播の歴史について述べた「そもそもコーヒー豆ってなに?」(p.44-p.45)について。

p.45 コーヒーの品種と栽培品種(図表)

誤:品種 → 正:種

アラビカやカネフォーラは植物学上の「種」であり、品種は誤り。品種は、栽培品種とほぼ同等なのだけど、品種の方が植物学上ではやや厳密に扱われがち(Coffea属には品種 forma が記述されてる種もある)なので、栽培品種という扱いにするのがいちばん無難です。この「種」「品種」「栽培品種」や、「変種」「亜種」などの表現は、日本のコーヒー本ではほとんど間違って書かれてるものが多いし、それどころか種とそれ以下での分類体系自体をぐちゃぐちゃに混同してるものすら多いので、実はこの本みたいに「品種→種」というくらい「しか」間違いがない、というのは珍しいくらい、まともな部類だったりするんですけどね…。ここが間違ってなければほぼ完璧な表だったので、惜しかった。
これに付随して、文章中(p.44)でも「種」と「品種」がちょっとごっちゃになってる部分があって、歴史上の流れでもティピカやブルボンについては「種」でなく「品種」と書いておいた方が無難かなぁ(まぁ別種に扱われてた時代もあったので、時代的には「種」でも合ってたと言えなくもないんで、この辺は微妙)。


「カネフォラ」「カネフォーラ」だと、個人的には「カネフォーラ」表記を推すかな…確かラテン語だと長音じゃなかったかと記憶してるので。あと表中の「ロブスタ」の説明では、「ビクトリア湖の西を起源とする」と書かれてるけど、これは最初に発見された場所のことだと思う。実際のロブスタの起源になったのはコンゴで発見されてエミール・ローランがベルギーに運んだもので、カネフォーラ種の起源自体としては「西中央アフリカ」くらいしか言えなかったり…。


あとまぁ現実問題として、さらには「カタログ」的にも、カティモールイカトゥ、コロンビア(ヴァリエダ・コロンビア)など、耐病性ハイブリッドについての記載も欲しいところだけどなぁ…。「スペシャルティ」押しだと難しいかもしれんけど。


同p.44-45

コーヒーの伝播の年代について

年代の数字から見るに、ClarkeのCoffee (Vol4のAgronomyだっけ…、まぁその辺り)に出てた世界地図(日本だと安田先生とかが書き直して使ってたり、それを広瀬先生が自著に載せてたりする)を下敷きにしてるのかな、と。まぁこの辺りの年代については、元々の書誌文献や資料自体があやふやだったりするので、はっきりとしたことが言えない部分はある。

ただ、エチオピアからイエメンへの伝播は、山内先生が述べておられるように、イブン・バットゥータの「三大陸周遊記(大旅行記)」に記載がないことなどから、6-9世紀よりももっと後の時代(14-15世紀まで)としておく方が無難だろうなぁ、と。出来れば「諸説あるが〜」という感じがベストかと。


インドからジャワ島への伝播は、まぁ1699でもいいかなぁ…All about Coffeeでもそうだし、という感じ。ただ、オランダのvan Hoorneが1690年に試験的な栽培を行い、このときに持ち込んだものがアムステルダムに伝えられたという、1899年のThe Los angels Timesの記事(http://coffee.quickfound.net/coffee_history.html)は、今どう扱われてる(Ukersの頃までに修正された?)んだっけ? という疑問が。

もしこっちの記録が正しいんなら、「A. ジャワで大々的に栽培されていたものは、1699年に伝播されたものの子孫」「B. 中南米に伝えられたティピカは、van Hoorneが1690年にジャワに持ち込んだものの子孫」という感じになる可能性があって。
ひょっとしたらこれは、(A)現在のインドネシアで見られるバーゲンダルとかシディカランなど「オールドスマトラ」と呼ばれるティピカタイプの品種や、ブラジルに伝えられたバーゲンダルに由来すると言われるスマトラ(さらにこれがムンドノーボや、ハワイコナにつながる)、(B) 中南米のティピカ(いわゆるティコとか、ブラジルでのコムン)やブルーマウンテンなど、の違いにつながるかもしれないと、個人的に興味がある部分だったりするもんで(つっても、遺伝子レベルでは今のところ、両者が別々のクラスターになるような明確な違いは報告されてないんだけどさ)。

ティピカについては、それ以降の1706アムステルダム、1713パリ(個人的には1714を推す)、1720年頃マルチニークはまぁOKだけど、ブルボンについてはレユニオン島に渡ったのは1717年でなく1715年の方がいいでしょう。あとまぁ、ブルボンは「東アフリカ、さらに中南米にも広まっていきました」と表現されてるけど、ここは単に「中南米にも」でなく「ブラジルを経て中南米にも」みたいに、ブラジルの名前を出しておいた方がいいかなぁと。ブルボンにとっては、それだけブラジルは特別な国なんで。