ムック裏話

#というほど大した話ではないけど。


今回は、以前からお世話になってるカフェバッハの中川氏を介しての紹介ということでもあり、依頼を引き受けました。私が関与したのは「コーヒーの起源」と「コーヒーと健康」。それぞれ2ページの記事に各々別のライターさんが居て、その内容をまとめる上での質問に答えたり、助言や原稿のチェックをする取材協力という形でした。なので文章自体については、それぞれのライターさんが、一般向けに判りやすいよう配慮した文章にしてくれてることと思います。


「コーヒーの起源」の方については、まぁ僕のサイトに書いてある内容を下敷きにして書いていただいたので、大きな手直しは特にはありませんでした。ただ、僕のサイトに書いてあること自体に、いくつか手直しした方がいいと思いつつ放置してた部分があったので、その点について修正をお願いしたくらいだと思います。


「コーヒーと健康」の方についてですが、こちらは最初から「Q&A形式で」という話でした…個人的には、Q&A形式だと枝葉の部分ばかりが強調されて、肝心の全体像がつかめなくなるし、細かな間違いが広まるもとになりかねないので、正直あまり乗り気ではなかったのだけど、限られたページ数だとシステマティックな説明をしても誤解がないようにするのは難しいのと、以前「Q&A形式の方が一般読者受けがよい」という話を聞いたこともあったので、あくまで「取材協力」というスタンスでならいいか、と。


で、まずはいくつかの質問項目をメールで送ってもらいましたが、当然ながら(?)、他の本でもよく見かけるような「コーヒーと健康」についての質問だったわけです(cf. 「ダイエット効果がある?」「胃もたれに効く?」など)。こちらとしては「学を曲げ世に阿(おもね)る」ような、いい加減な回答をするつもりはありませんでしたので、それに対するこちらの答えは、当然「医学的根拠は*ほとんど*ありません/逆に胃もたれをすることがあり、1999年に出た総説にまとまってます」という感じのものばかりだったわけでして。

#まぁ多分「一般書じゃ使えないだろうなぁ」とは思ってましたが。


それでは困るだろうということで、質問のあった項目と関連するような内容でいくつかの候補を示し、また「この書き方でなければいけない」という部分はそのように指示した上で原稿をやり取りして、今のような内容に落ち着いた、という経緯があります。


#多分「コーヒーと健康」は帰山人さんと同じ人が担当してたんだと思います…当初、帰山人さんと同じような感じに「著者紹介」として書かれてたので、それはやめてくれ、と ^^; 僕自身がQ&A形式を選んだり、細かな表現に至るまでを書いたわけじゃないんだから(チェックはしたけど、あくまで「これがこのライターさんの文章の個性なら、まぁいいんじゃない」と指摘しなかった部分が多いので)。


で「コーヒーと健康」の項ですが、これは前半部分と、後半の「病気との関係」の部分に大きく分かれてます。前半部分については、Q&Aネタを元にしてライターさんが書いた文章を出来るだけ活かす形にしてます。後半部分は、疫学で独特な言い回しを変えられると意味が変わってまずい部分が多かったこともあり、概ね僕の書いた文章がそのまま採用されてます。


前半部分は主にコーヒーの急性作用についてのお話で、「実際の、ヒトでの」薬理学的な話です。基本的にどれもヒトでの介入試験が行われたものであり、特にカフェインの作用に帰結できるものについては、デカフェを対照群としたRCT(ランダム化比較試験)まで行われてるものや、それらがまとめられた総説で扱われた作用を取り上げてます。


後半部分については疫学のお話です。基本的には、(1) 複数の症例対照研究やコホート研究があり、(2) それらをまとめたメタアナリシスやシステマティックレビューまで出ているもの、を中心に扱ってます。


ここで「RCT」とか「メタアナリシス(=メタ解析)」とか言う言葉がいきなり出てきて、わけがわからないかもしれませんが、これらの用語や考え方については、こちら(http://www7.atwiki.jp/kimunari/pages/49.html)が判りやすくまとまっていると思います。これらは「EBM: evidence-based medicine、根拠に基づく医療」という考え方の中でよく出てくる用語ですが、まぁ非常に大雑把に言うと「ヒトでのRCTがあったり、メタアナリシスやシステマティックレビューまで出ている」ということは、医学的に見ても「非常にレベルが高い『医学的根拠がある』と見なせる」と考えてくれて構いません。

#今はこれだけ「立派な」ヒトでの総説が数多く出てるのですから、いやしくも「コーヒーと健康」を語る際に、単報だけしか取り上げなかったり、in vitroでの抗酸化作用が…とか、培養細胞では…動物実験では…とだけしか言えないようじゃあ、専門家を名乗らんでほしいところです。


それと、今回の後半の文章を書いて渡すときに「文章を変えてもいいけど、意味が正しく、変わらないようにすること」を強調しました。病気との関連については相関関係を見た論文はあっても、因果関係が直接証明されたものはないので、「コーヒーを飲む人では飲まない人と比べて、○○のリスクが低かった」という文章を「コーヒーを飲むと○○のリスクが下がる」とは*絶対に*書き換えないように、この辺りは*絶対に*安易に考えてもらっちゃ困る、と。で、結局、後半は概ね僕が書いた文章をそのまま使っている部分が多いようです。

一応、一般向けに砕けた表現にはしていますが…

  • 「コーヒーを飲む人では飲まない人と比べて、○○のリスクが低いことが報告されている」:疫学調査で相関関係があった(=因果関係については証明されてない)
  • 「(前半部の急性作用で)コーヒーで○○の効果が見られた」:介入試験が行われ、因果関係まで示唆されている
  • 「これら(=複数の論文)の調査をまとめた報告では」:メタアナリシスも出ている(=EBMで高いレベルの医学的根拠がある)
  • 「1日1杯につき○%の割合でリスクが低下している」:用量依存的な影響が見られている/なお、このように具体的な数値を「という報告もある」との後置きなく「言い切り型」で使うのは、それなりの根拠(メタアナリシス)がある場合だけにしてます。
  • 「コーヒー」と「カフェイン」の言葉の使い分け

など、きちんと専門的に見ても正しく、意味が一意に通るよう配慮した文章にしたつもりですので、そこらへんも細かく見てもらうと面白いかもしれません。

一応、ここ数年のトピックになってる糖尿病リスクの低下や、次のトピックになるだろうアルツハイマー病リスクなどを含め、大体重要な知見についてはカバーしてます。Q&A形式は、そういったトピックをつまんで読むには適してると思いますので、最新の話題をまとめて大雑把に知っておきたい、という人に一読をおすすめします。

僕自身は、コーヒー飲用の総合的なリスクを考える場合、妊娠以外の状況依存的(context-dependent)なリスクだとか、カフェイン禁断頭痛などの(QOL低下にもつながる)カフェイン依存の影響だとか、カフェインによるストレス低減などを総合的に評価する必要があると考えてて、Q&A形式だとどうしてもその辺りのバランスが狂いがちになる(想定読者層が読みたがるだろう内容に偏る)傾向があるんじゃないかと思いますが、まぁそのあたりは考え方や編集方針の違いもあるでしょうし、まぁ仕方ないよなぁと。多分「この10年くらいで、やっとコーヒー有害説が解消されてきたよ…」と思ってて、有害面に言及することにナーバスな人もまだ世間には多いだろうし…。まぁ、その辺りは「健康面を重視するあまり無理して飲むことがないように」という注意書きで何とかご勘弁を、ということで。