「コーヒーポリフェノールで美肌に」??

最初の辺で取り上げられていた話題で、これが今回の大テーマの一つだったと思います…が、この部分の科学的信憑性は高くありません。ビデオ出演されてたお茶水大の近藤先生は、確かにコーヒー関連の研究もされてるようですが、きちんとした形になっている論文は、ネスレとの共同研究である、次の一つだけです。

これは、日本人のポリフェノール摂取の多くがコーヒーに由来することを示した論文で、番組でも触れられていた内容です。しかしこの論文に、肌がどうこう、という結果は載っていませんし、これ以外には近藤先生が書いたコーヒーに関する論文は見当たりませんでした。また少なくともPubMedで検索した範囲では、近藤先生のポリフェノールに関する論文は見つかりますが、その皮膚への影響を検討した論文もないようです。


「そんなはずはない、番組冒頭に、でかでかと『論文要旨』と書かれたのが出てたじゃないか」と言われるかもしれませんが、少なくともWeb上で検索した限り、該当する「ちゃんとした論文」はありませんでした。引っかかってきた情報は

ここに「資料名:日本栄養・食糧学会大会講演要旨集」と書かれており、これは正規の論文ではなく、学会発表です*1。ただ普通、講演要旨にあんな仰々しい「表紙」を付けることはありませんし、普通の日本語論文でも表紙の書き方をあんな感じにする(「論文要旨」とでかでかと書く)ことはないはずなので、どこか内部で使ったもの…ネスレとの共同研究みたいなので、ネスレの社内報か、ひょっとしたらこの研究で卒論や修論を書いた人のものかもしれません…の可能性もあると思います。何にせよ、きちんとした査読を受けて発表された「正規の学術論文」とは思いがたいです。

今まさにiPS細胞に関する虚偽論文騒動が話題になっていますが、単なる「学会発表」に飛びつかないとか、その論文がちゃんとしたものかどうかを見極めることの重要性、という意味では通じる部分があるかもしれません。


「でも実際、番組の実験では…」というのは、テレビで流すのは説得力を増やすための映像であって、いわゆる「実験ごっこ」の域をでないものだから、という簡単な説明でいいよね ^^; ……これまでも民放とかでさんざん話題になってきたことだし、視聴者側のリテラシーが大事、ということで。あれを見て、つい信じてしまったという人は他にも引っかかりやすいかもしれないので、気をつけた方がいいかもしれません。


もちろん、今はまだ論文の投稿中なので出てきてない、もう少ししたら出る予定だ、という可能性もありますが…そういう場合は、きちんと論文が掲載誌に受理(accept)されてから発表するのが筋なので、その点でもちょっと首をかしげたくなる部分はあります。ただ何にせよ、そうした形できちんと内容を精査できるような形で発表されないことには、評価のしようがないのが現状です。今後、きちんとした査読を受け、ちゃんと学術的な手続きを踏んだ論文が、近藤先生とネスレから出てくることを期待します。


一方「ちゃんとした論文」での研究結果はどうなってるのか、というと、過去にブラジルとトルコで行われた2つの疫学調査の結果があります。

しかし、どちらの調査でも「コーヒーは皮膚の老化に関係しない」という結果が出ています。過去の結果を見る限り、残念ながら「コーヒーで美肌」というのは、今のところは期待薄のようです。ただ、実はこれらの研究は、昔ささやかれていた「コーヒーを飲むと肌が衰えるんじゃないか?」という疑いを晴らすものだったので、そういう意味では「安心して飲める」ことを支持する結果が得られてます。

*1:学会発表をするときには、事前に表題や演者と共に、発表内容を短くまとめたもの(要旨)を送付して申し込みます。この要旨をまとめたのが要旨集です。場合によって要旨の内容をチェックして発表していいかどうかの審査を行う学会があります。