書けること、書けないこと

僕は本業では大学の先生をやってるわけです。一応、微生物学が専門ということなのだけど、実際の実験テーマはむしろ宿主側の防御機構で、癌抑制や生体防御に関わってるある遺伝子をテーマに、その生理機能の研究を行ってます。学生実習とか講義なんかも一部は持っているけど、メインの仕事は実験して論文を書くことという……まぁいわゆる研究職というヤツです。


ただ「大学で研究してる」というと、たまに「好きなことが仕事にできて羨ましいね」と言われることがあるんだけど…誤解を恐れず言うと、それは必ずしも正しくはなかったりします。もちろん今のテーマは面白いし、研究自体も好きなのだけど、他の仕事と同様「好きなようにできる」というのとは違うわけです。研究者としてやっていくためには、研究に必要な予算を獲得しなくちゃならないし、実験に必要な設備や機器があるかどうかも大きい。研究テーマも、その研究室・研究分野で、ある程度の「枠」があり、それから大きく外れた研究をすることはできません。


もし、そういった制約や枠組みを一切無視して、「何でも好きな研究をしていい」と言われたら、僕はおそらくコーヒーについて何らかの研究を始めるでしょう…それも、きちんと国際誌に論文を載せることができるようなものを。「一切無視」とまでいかなくとも、自分の意思である程度、実験テーマが自由になるような状況になったら、そういう研究をはじめるつもりだし、実はもうそれに備えて、いろいろと研究のネタは考えてたりします……が、そういうのを事前にWEBで公開するのは無茶というものです。世の中には、自前のアイデアはないけど好きなように研究が出来るという人もいるし、そういう人にくれてやれるほど「どうでもいい」ネタではないですから。


#で、そういう人が「きちんと正しい科学的手法で」研究してくれるんならまだいいんですが、そういうのに
#限って、いわゆる「エセ科学」な人も多いのが現状だったりするので。


ここらへんのネタは、以前、喫茶MLの有志で抽出理論を構築しはじめた頃から、ずっとあっためつづけてまして、さらに10年くらいの月日をかけて、かなりの部分がまとまってきてます。これまで人の前で話したのは、その喫茶MLの有志(+懐疑場所を提供していただいたカフェバッハの方々)と、あとはためしてガッテンからの取材のときくらいかな?


ためしてガッテンの方は、何か「良いおこげ、悪いおこげ」という感じで、かなり微妙な内容になってましたが、
#まぁ説明が判りにくかったんだろうなというのと、石脇さんへの取材の結果からああいう内容になったのかな?
#と考えてました。


その後、石脇さんからの声がかりで、コーヒー検定教本用に「コーヒーと健康」についての文書を寄稿することになり、その後、彼の作った教本に触発されて(&バッハの田口さんからハッパかけられて)、自分の持ってるものを出し切るつもりで、自分の考える「コーヒー学の教科書」をぼちぼちながら書きはじめ……今、大体word文書で150pくらい書いて、半分〜2/3くらい書いたかなぁ、という感じのところ。今のところ、この文書を見たことがあるのは(書く直接のきっかけになった)バッハの人達と…あとはフレーバーコーヒーさんのところに行ったときに、ちらっとだけ見せた程度かな?


この文書、基本的にはきちんとした学術論文を元に総説的にまとめながら書いているのだけど、まだ日本では紹介してる人のいない(けど極めて重要な)論文を引いてるし、何より自分で立てた味覚や抽出原理などに関する仮説をいくつか盛り込んでおり、その仮説に基づいて体系化してる部分があります。そういうネタを表に出さないで説明することは難しいし、かといって現時点ではそのネタを表に出すこともできない……と、まぁそんな状況です。


#というわけで、移転後もこないだフレーバーコーヒーさんでお見せしたような「核心的」な内容が公開されることは、
#まぁないと思いますので。そのへんは期待なさらず。