「変わり種」な品種(3)

#とりあえず、今回で Ukers "All About Coffee"に(当時の分類では変種として)名前の出てるものは網羅できたはず。

アングスティフォリア

「アングスティフォリア angustifolia」とは「狭い(angust-) 葉(folia)」を意味し、その名の通り、通常のアラビカ種と比べて、葉が狭く、細くなっているものを指す。1907年にCramerがC. arabica var. angustifoliaという変種名を提唱しており、比較的古くから存在が知られていたものの一つだ。ただし一口に「葉が狭い」と言っても、その性質は一様ではなく、同様の表現型を示すものが混在したものだと考えられている。


アラビカ種の葉は、一般に、その先端と付け根の方が細くなった、楕円形の形状をしている。ブルボンではティピカよりも一般に若干幅広であるが、アングスティフォリアでは全体に幅が狭く細長くなっていたり、あるいは先端や付け根がより細く尖った形状になっている。このタイプの品種としてはブラジルで二つの株が採取され、その遺伝学的性質が検討された。その結果、二つの株では、それぞれ別々の遺伝子によって調節されていることが判明し、それぞれag1、ag2遺伝子と名付けられた。

ag1、ag2は、いずれも劣性の遺伝子であり、劣性ホモ(ag1ag1、ag2ag2)のときに葉が狭くなる表現型が現れる。この両者の遺伝子は互いに独立、すなわち、ag1ag1であればAg2の組み合わせがどうであろうとも、ag2ag2であればAg1の組み合わせがどうであろうとも、葉の幅が狭くなることが明らかになっている。


また染色体数の異常で43本になったものにも、葉の幅が狭くなるものが見つかっている。さらに薬剤の投与や放射線照射によって生じた変異体からも見つかっており、これらについてはag1やag2とは異なる遺伝子変異(ag3〜ag5の変異)によることが報告されている。この他、エチオピア野生種などにも葉の形が通常より細くなるものが見つかっているが、上述のag1〜ag5によるものなのか、それとも別の遺伝子によって調節されているものなのかについては、よく判ってはいない。少なくとも、葉の幅の決定が、複数の遺伝子によって複雑に調節されていることは間違いないと言える。

この他、アングスティフォリアでは一般的に実の収量が落ちることが知られているが、このことと上記の遺伝子との関連については、まだよく判っていない。

ヴァリエガータ

ヴァリエガータとは「斑入り variegation 植物」のことを指す。ジャワ(インドネシア)でコーヒーを研究していたOttolanderが1900年頃に発見したものと言われ、1913年にC. arabica var. variegata Ottol. ex Cramerとして記載が見られる。コーヒーノキの場合、葉にスポット状あるいは縞状に、色の薄い部分が生じ、緑〜黄色の斑となって現れる。

斑入りの変異体には、葉の形状は正常なものと、形や表面の質感などにも異常が見られるものに大別される。前者は「アルボマクラータ、albomaculata(白班)」とも呼ばれ、クロロフィル葉緑素)の合成系に異常があるものだと考えられており、その性質は母系のみから遺伝*1する。一方、後者は父系(花粉)からも遺伝する。それぞれの具体的な遺伝子については未詳である。

コラムナリス

ヴァリエガータと同時期にOttolanderが報告したものの一つで、1913年にC. arabica var. columnaris Ottol. ex Cramerとして記載された。コラムナリスとは「円柱形の」という意味であり、その名の通り、樹形が円柱形に育つのが特徴。成長力が旺盛(vigor)で、樹高が高く伸びる。低地や、比較的乾燥した場所でも生育が可能だとされる。この性質から一部は東アフリカに導入されたようだが、その遺伝学的な研究は行われていないようだ。

*1:葉緑体における異常である可能性を示唆する。