スペシャルティ vs コモディティとしての耐病品種

しかし一方で、この「ハイブリッド」の普及は、アメリカや日本、ヨーロッパなどの消費国からは必ずしも歓迎されたとは言いがたいものだったのも事実だ。いくら戻し交配して「元のアラビカに近づけた」とは言っても、若干の香味上の違いは生じたし、それらは「品質の低下」と見なされた。またコーヒーさび病に対する農薬の使用が原因とされる「フェノール臭」の増加*1も加わり、「70年代以降、中南米のコーヒーの品質は落ちた」と評価している者は、少なからず存在している。


近年の「スペシャルティコーヒー」ブームは、元々これらの「コーヒーの低品質化」に対するアンチテーゼとして育ってきたという側面がある。そしてこの側面から見れば、中南米が耐さび病のために行った「ハイブリッドの導入」「耐さび病農薬の導入」の両方を、「スペシャルティの敵」と見なして、非難や攻撃の対象としている者が存在することも、また事実である。

……物事をそこまで単純に考えられる人は、きっと本人は幸せなんだろうと思う。しかし「現実」はそんなに単純なものではない。ハイブリッド品種と農薬、このいずれか片方が欠けていただけでも、今のように「コーヒーが飲める毎日」が続いていたという保証は全くないのだ……さらに言うなら、コーヒーさび病の脅威は今もなお、現在進行形で続いている…例えば、昨年の3月頃にもコロンビアでさび病が発生し、さらなる新型の発生か?として警告が出されたくらいだ。


また「耐病品種だから」というだけで、その品種を低く評価するような「自称・スペシャルティコーヒーの専門家」もいるようだが、これについても浅薄な考えだ、と釘を指しておきたい。現在、コーヒーの生産地では実にさまざまな品種が開発されている。その中ではハイブリッドの評価も徐々に上がりつつあるし、「あの」ロブスタですら水洗式の導入などによって、その独自の持ち味を「個性」の一つとして評価しようという動きもある*2のだ。「耐病品種で、ロブスタの性質を受け継いでいる」ということから短絡的に「=低品質」と考えるのではなく、あくまで自分の舌と鼻で「品質の高さ」を評価できてこそ、初めて「真の専門家」と呼べるのではないだろうか。


……とまぁ、最後は何だか「安易なブーム」を批判するような締めになったが、実はあんまりこういうのはガラに合わないので、このくらいにしておきたい。後は、皆さんが各々考えてほしい、ということで。

*1:2,4,6-トリクロロフェノール、2,4,6-トリクロロアニソールなどの塩化フェノール化合物が原因と言われる。これらは農薬に由来する塩素化合物から、土壌中のカビが作り出すものと考えられている……個人的には、農薬以外にもロブスタにおけるクロロゲン酸量の多さのために生じる部分もあるだろうと考えるが。

*2:まぁもちろん、昔ながらのロブスタを「個性的」と言われても困るわけで…「個性」とは便利な言葉だが、きちんと品質評価できない人が使うと失笑物になりかねないので要注意だ。